2026年8月31日

「物を持ち上げると肘の外側が痛い」
「雑巾を絞るとズキッとする」
「パソコンのマウス操作でも肘が痛む」
このような症状はありませんか?
肘の外側の痛みで代表的な病気が、一般に**「テニス肘」と呼ばれる上腕骨外側上顆炎(外側肘部腱障害:lateral elbow tendinopathy)**です。
「テニス肘」という名前ですが、実際にはテニスをしていない方にもよくみられます。
料理、掃除、パソコン作業、育児、工具を使う仕事など、手首や指を繰り返し使うことがきっかけになることも少なくありません。
さらに近年では、テニス肘は単純な「炎症」だけではなく、腱に繰り返し負荷が加わることで生じる腱の変性を伴う腱障害として捉えられることが多くなっています。
今回は、テニス肘の原因、症状、セルフチェック、治療、リハビリテーション、注射や体外衝撃波治療の位置づけまで、最新の医学的知見をもとにわかりやすく解説します。
テニス肘とは?
テニス肘は、肘の外側にある上腕骨外側上顆に付着する腱に負担がかかり、痛みが生じる病気です。
特に関係が深いのが、手首を反らす筋肉の一つである**短橈側手根伸筋(ECRB)**です。
この筋肉の腱は肘の外側に付着しています。
例えば、
-
フライパンを持つ
-
ペットボトルを持ち上げる
-
雑巾を絞る
-
荷物を持つ
-
パソコンのマウスを操作する
といった動作では、手首を安定させるために前腕の伸筋群が働きます。
こうした動作を繰り返すことで腱に負担が蓄積し、痛みにつながることがあります。
なぜ「炎」とついているのに、炎症だけではないの?
「上腕骨外側上顆炎」という名前から、「炎症が起きている病気」と思われる方が多いと思います。
もちろん急性期には炎症性変化が関与することもありますが、慢性化したテニス肘では、典型的な急性炎症だけでは説明できない腱の変性が認められることがあります。
そのため最近では、
lateral elbow tendinopathy(外側肘部腱障害)
という呼び方も用いられます。
つまり、
「炎症を抑えれば終わり」ではなく、腱にかかる負荷を調整し、徐々に腱が耐えられる状態へ戻していくこと
が治療で重要になります。
テニス肘の典型的な症状
もっとも特徴的なのは、肘の外側の痛みです。
次のような動作で痛みが出やすくなります。
-
ペットボトルを持つ、コップを持つ、フライパンを持ち上げる
-
ドアノブを回す、雑巾を絞る
-
荷物を持つ
-
パソコンのマウスを使う
-
握手をする
じっとしているときにはあまり痛くなく、物を持つ・握る・手首を使うと痛いというケースが典型的です。
症状が強くなると、軽い物を持つだけでも痛みを感じたり、仕事や家事に支障が出たりすることがあります。
どこを押すと痛い?
典型的なテニス肘では、肘の外側にある上腕骨外側上顆周辺に圧痛があります。
「肘が痛い」と言っても、
-
肘の外側
-
肘の内側
-
肘の後ろ
-
肘の奥
では原因が異なります。
そのため、診察では「肘が痛いです」だけではなく、「指一本で一番痛い場所を指してください」と確認することが重要です。
テニスをしていなくてもテニス肘になる?
もちろんあります。
むしろ日常診療では、テニスをしていない患者さんも多くいらっしゃいます。
発症のきっかけには、
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家事、育児
-
パソコン作業
-
建築・工場作業
-
美容師、調理師
-
荷物を扱う仕事
などがあります。
大切なのはスポーツ名ではなく、手首・指・前腕を繰り返し使用しているかどうかです。
自宅でできる簡単なチェック
テニス肘では、診察でいくつかの誘発テストを行います。
代表的なのがCozenテストです。
肘を曲げた状態で手を握り、手首を反らそうとします。
この動きに抵抗を加えたときに、肘の外側へ痛みが出る場合はテニス肘を疑う手がかりになります。
また、中指を伸ばす動きに抵抗を加えるMaudsleyテストなども使用されます。
ただし、これらはあくまで診断の補助です。
レビューでは、外側肘部痛の診断に用いられるテストや名称にはかなりのばらつきがあることも報告されています。
セルフチェックが陽性=テニス肘確定
ではありません。
「肘の外側が痛い」=すべてテニス肘ではありません
ここは非常に重要です。
テニス肘と似た症状を起こす病気には、
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橈骨神経・後骨間神経周囲の障害
-
橈骨頭周囲の関節障害
-
変形性肘関節症
-
関節内遊離体
-
靱帯損傷
-
頚椎由来の神経症状
などがあります。
特に、典型的な上腕骨外側上顆より少し遠位の前腕側に強い痛みがある場合や、しびれ・筋力低下を伴う場合は、別の原因についても評価が必要です。
そのため、
「ネットでテニス肘と書いてあったから」
と自己診断するのではなく、痛みが続く場合は整形外科で確認することをおすすめします。
整形外科では何を調べる?
まず、
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いつから痛いか
-
どこが痛いか
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どんな動作で痛いか
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仕事の内容、スポーツ歴
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握力低下の有無、しびれの有無
などを確認します。
そのうえで圧痛や手首・指の抵抗運動などを調べます。
レントゲン検査
テニス肘自体はレントゲンで必ず異常がみえる病気ではありません。
しかし、肘関節の変形や石灰化、その他の骨・関節疾患を除外する目的で行うことがあります。
MRI検査
症状が長引いている、診断がはっきりしない、他の病態が疑われる場合などにはMRIを検討します。
テニス肘の治療|まず大切なのは負荷調整
テニス肘の治療は、基本的に保存療法から始めます。
重要なのは、
「一切使わない」でも「痛くても使い続ける」でもありません。
痛みを強くする負荷を減らしながら、徐々に腱が負荷へ耐えられる状態を作っていきます。
① 痛みを悪化させる動作を見直す
例えば、
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手のひらを下にして重い物を持つ
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片手で重いフライパンを持つ
-
手首を反らせたまま作業する
-
強く握り続ける
といった動きが症状を悪化させることがあります。
可能であれば両手で持つ、作業方法を変えるなど、日常生活での負荷を調整します。
② リハビリテーション・運動療法
現在、保存療法の中心の一つが運動療法です。
2024年のネットワークメタ解析では、短期的には多くの治療がプラセボと比べ明確な優位性を示さなかった一方、6週間を超えて6か月までの中期では理学療法・運動療法が疼痛改善に有利という結果が示されました。
また、複数のシステマティックレビューをまとめたアンブレラレビューでも、運動療法は疼痛軽減に有用である可能性が報告されています。
リハビリでは、
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手首を動かす筋肉の柔軟性改善
-
前腕伸筋群の筋力訓練
-
徐々に負荷を増やすトレーニング
-
肩・肩甲骨を含めた上肢全体の機能改善
-
仕事・スポーツ動作の見直し
などを行います。
「ストレッチだけ」「マッサージだけ」ではなく、負荷を調整しながら筋・腱の機能を回復させることがポイントです。
③ テニス肘バンド・サポーター
前腕に装着するカウンターフォースバンドを使用すると、作業時の痛みが軽くなる方もいます。
ただし、サポーターだけで腱障害そのものを治すものではありません。
あくまで日常生活や仕事中の負担を軽減する補助的な方法として考えます。
④ 痛み止め・外用薬
症状に応じて消炎鎮痛薬や外用薬を使用することがあります。
痛みを軽減することで日常生活やリハビリを行いやすくする目的があります。
ただし、薬だけで腱にかかっている負荷の問題が解決するわけではありません。
ステロイド注射は効く?
ステロイド注射は、短期的に痛みを軽減する効果が期待できます。
一方、長期成績については慎重に考える必要があります。
2025年の26件のランダム化比較試験、1,877人を含むメタ解析では、ステロイドとPRPを比較し、ステロイドは短期的、PRPはより長期的な成績で有利となる傾向が報告されています。
ただし、注射研究は研究間のばらつきもあり、
「全員にPRPが必要」
「ステロイドは絶対に使ってはいけない」
という意味ではありません。
症状の期間、重症度、仕事内容などを考慮して判断します。
体外衝撃波治療(ESWT)は?
慢性化したテニス肘では、**体外衝撃波治療(ESWT)**が選択肢になることがあります。
2024年のメタ解析では、ステロイド注射との比較で、ESWTは1か月ではステロイドより成績が劣ったものの、3か月・6か月では疼痛や機能の一部指標で良好な結果が報告されました。
一方で、研究結果は必ずしも一貫していません。
2025年のアンブレラレビューでも、ESWT、超音波、ステロイド注射などの比較について検討されていますが、基礎となるメタ解析の質や結果にはばらつきがあります。
したがって、ESWTも、
「これをすれば必ず治る」
という治療ではなく、運動療法や負荷調整を行っても改善しない慢性例などで検討する選択肢の一つです。
PRP注射はどうなの?
PRP(多血小板血漿)療法は、自分の血液から血小板を多く含む成分を抽出して患部へ注射する治療です。
2025年のメタ解析では、ステロイド注射と比較した場合、PRPは長期の疼痛・機能で有利となる可能性が示されています。
ただし、PRPの作製方法や注射方法、患者背景は研究によって異なります。
そのため、すべてのテニス肘にPRPを第一選択として行うという段階ではなく、治療選択肢の一つとして考えるのが適切です。
最新医学論文から分かる重要なこと
2024年の47件のランダム化比較試験を含むシステマティックレビューでは、外側肘部腱障害に対するさまざまな非侵襲治療が検討されましたが、多くの治療についてエビデンスの確実性は低い、または非常に低いと評価されました。
これは、「何をしても意味がない」という意味ではありません。
むしろ、「患者さん全員に効く魔法の治療はまだない」ということです。
だからこそ、
-
症状の期間
-
仕事内容、スポーツ
-
痛みの強さ
-
本当にテニス肘なのか
を評価して治療を組み合わせることが重要です。
手術が必要になることはある?
多くの場合は保存療法で治療します。
しかし、十分な期間、
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負荷調整
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リハビリテーション
-
薬物療法
-
必要に応じた物理療法や注射
などを行っても強い症状が続き、仕事や日常生活に大きな支障がある場合には、手術を検討することがあります。
ただし、テニス肘だからすぐ手術ということは通常ありません。
こんな肘の痛みは整形外科へ
次のような場合は、一度受診をおすすめします。
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2~3週間以上肘の痛みが続いている
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物を持つだけで強く痛む
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握力が落ちてきた
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仕事に支障がある
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夜間や安静時にも強く痛む
-
肘が大きく腫れている、肘が伸びない・曲がらない
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手や指にしびれがある
-
転倒や衝突後から痛い
よくある質問
症状が徐々に改善する方もいますが、数か月以上長引くケースもあります。負荷をかけ続けると慢性化することもあるため、日常生活に支障がある場合は整形外科で評価を受けましょう。
はい。家事、仕事、パソコン作業、育児など、手首や前腕を繰り返し使うことで発症することがあります。
強く揉めば治るという病気ではありません。腱に過剰な刺激を加えると痛みが悪化する可能性もあります。負荷調整と適切な運動療法が重要です。
完全に使わないことが必ずしも最善ではありません。強く痛む動作は減らしながら、症状に応じて適切な負荷を徐々に加えることが大切です。
短期間の疼痛軽減が期待できる場合がありますが、長期的な腱障害の改善を保証する治療ではありません。適応を判断して使用します。
慢性例では有効なケースがありますが、研究結果にはばらつきがあります。運動療法などの保存療法で改善しない場合に検討する選択肢の一つです。
まとめ|「肘が痛い=とりあえず湿布」だけで終わらせないで
テニス肘は、肘の外側にある前腕伸筋腱への繰り返しの負荷によって起こる代表的な腱障害です。
典型的には、
「ペットボトルを持つと痛い」
「雑巾を絞ると痛い」
「フライパンを持つと痛い」
「肘の外側を押すと痛い」
といった症状がみられます。
しかし、肘の外側の痛みがすべてテニス肘とは限りません。
だからこそ、
痛みの場所 × 痛む動作 × 筋力 × 神経症状 × 腱・関節の状態
を総合的に評価することが重要です。
治療の基本は、痛みを悪化させる負荷を調整しながら、リハビリテーションによって徐々に前腕の筋・腱の機能を回復させることです。
最新研究では、ステロイド、PRP、体外衝撃波などさまざまな治療が検討されていますが、現時点でもすべての患者さんに一つの治療が圧倒的に優れているとは言えません。
「何か月も痛いけれど我慢している」
「注射をしてもまた痛くなった」
「仕事でどうしても手を使わないといけない」
という場合は、一度治療方法そのものを見直すことも大切です。
参考医学論文
-
Lowdon H, et al. Comparison of Interventions for Lateral Elbow Tendinopathy: A Systematic Review and Network Meta-Analysis for Patient-Rated Tennis Elbow Evaluation Pain Outcome. J Hand Surg Am. 2024.
運動療法・理学療法は中期的な疼痛改善を示した一方、短期では各治療の明確な優位性は限定的でした。 -
Campos MGM, et al. Effectiveness of non-invasive therapies on pain, maximum grip strength, disability, and quality of life for lateral elbow tendinopathy: A systematic review and meta-analysis. 2024.
47件のランダム化比較試験を検討し、多くの非侵襲的治療についてエビデンスの確実性が低いことを報告しています。 -
Platelet rich plasma versus corticosteroids for lateral epicondylitis: a meta-analysis of randomized clinical trials.2025.
26件のRCT・1,877人を解析し、ステロイドとPRPの短期・長期成績の違いを検討しています。 -
Extracorporeal Shock Wave Therapy Versus Local Corticosteroid Injection for Chronic Lateral Epicondylitis: A Systematic Review with Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. 2024.
慢性テニス肘において、短期ではステロイド、3~6か月ではESWTが一部のアウトカムで良好な結果を示しました。 -
Zhu P, et al. Comparison of extracorporeal shockwave therapy, ultrasound therapy, and corticosteroid injections for treatment of lateral epicondylitis: an umbrella review of meta-analyses. 2025.
ESWT、超音波療法、ステロイド注射に関する複数のメタ解析を再評価したアンブレラレビューです。
監修者情報
整形外科おおつかクリニック
院長 大塚 貴史
日本整形外科学会認定 整形外科専門医。
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)をはじめ、肩・肘・手の痛み、スポーツ障害、腱・靱帯損傷など幅広い運動器疾患を診療しています。
肘の痛みでは、痛む場所だけで病名を決めるのではなく、仕事やスポーツでの負荷、痛みが出る動作、筋力、神経症状などを総合的に評価することが大切です。
症状に応じて薬物療法、装具療法、リハビリテーション、物理療法などを組み合わせ、痛みの軽減だけでなく、日常生活・仕事・スポーツへの安全な復帰と再発予防を目指します。