2026年9月04日

「骨折を少しでも早く治したい」
「できるだけ早く仕事やスポーツに復帰したい」
「骨がつくまで、ただ待つしかないの?」
骨折した患者さんから、このような質問をいただくことがあります。
実は整形外科には、骨折部の骨形成を促進し、骨癒合をサポートすることを目的とした超音波治療があります。
その代表的な方法が、低出力パルス超音波治療(LIPUS:Low-Intensity Pulsed Ultrasound)です。
当院では、骨折の状態を確認したうえで、骨癒合を少しでも後押しすることを目的に超音波治療を積極的に取り入れています。
また、治療用超音波は骨折だけではありません。
変形性膝関節症をはじめ、筋肉や腱の痛み、スポーツ障害など、整形外科・リハビリテーション領域で幅広く利用されている物理療法の一つです。
今回は、
「超音波を当てると何が起こるの?」
「骨折はどれくらい早く治るの?」
「膝の痛みやスポーツ障害にも使えるの?」
といった疑問について、医学論文を交えながらわかりやすく解説します。
整形外科で使う「超音波治療」とは?
超音波とは、人間の耳には聞こえない高い周波数の音波です。
超音波というと、妊婦さんの検査や内臓を見る「エコー検査」を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし超音波は、検査だけではなく治療にも利用されています。
整形外科では、治療目的に応じて超音波の出力や照射方法を変え、
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骨折の骨癒合促進
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関節の痛み
-
筋肉や腱など軟部組織の症状
-
スポーツ障害
-
リハビリテーションの補助
などに使用することがあります。
なかでも骨折治療で使われるのが、**低出力パルス超音波(LIPUS)**です。
当院では「オステオトロンV」を骨折治療に使用
当院では、骨折に対する超音波治療として、オステオトロンV(OSTEOTRON V)を使用しています。
オステオトロンVは、低強度のパルス超音波を骨折部へ照射する超音波骨折治療器です。
低強度の超音波による微細な機械的刺激を骨折部へ与え、骨形成を促進し、骨折の治癒を促進することを目的としています。
皮膚を切る必要はなく、注射をする治療でもありません。
骨折部を確認してプローブを当て、超音波を照射します。
そのため、
「骨折を少しでも早く治したい」
「仕事へ早く復帰したい」
「部活動やスポーツへできるだけ早く戻りたい」
という患者さんには、ぜひ知っていただきたい治療の一つです。
LIPUSによる音響刺激で骨形成を促進
「超音波を当てるだけで、どうして骨折治療になるの?」と不思議に思われるかもしれません。
骨折すると、身体の中では、
炎症
↓
仮骨形成
↓
新しい骨の形成
↓
骨のリモデリング
という複雑な修復反応が始まります。
LIPUSは低強度の超音波による微細な音響的・機械的刺激を骨折部へ加えます。
この刺激が骨折治癒に関係する細胞反応などに作用し、骨形成と骨癒合のプロセスをサポートすると考えられています。
つまり、超音波で骨を無理やりくっつける治療ではありません。
人間が本来持っている、「骨を治そうとする働きをサポートする治療」と考えるとわかりやすいでしょう。
注目!過去の研究では骨癒合期間が約40%短縮した報告も
患者さんが最も気になるのは、「実際、超音波を当てるとどれくらい早く骨がつくの?」ということではないでしょうか。
LIPUSについては、これまで数多くの研究が行われています。
2009年に医学誌『BMJ』に発表されたランダム化比較試験のシステマティックレビューでは、保存的に治療された新鮮骨折3試験をまとめると、
画像上の骨癒合期間が平均36.9%短縮
したと報告されました。
つまり、約4割近い短縮です。
さらに骨折別に見ると、
橈骨遠位端骨折
約77日 → 約51日
約34%短縮
舟状骨骨折
約62日 → 約43日
約30%短縮
脛骨骨幹部骨折
約190日 → 約102日
約46%短縮
という結果でした。
「骨折を少しでも早く治したい」という患者さんにとっては、非常に興味深いデータだと思います。
ただし、大切な注意点があります。
これは過去の比較的小規模な研究で報告された画像上の骨癒合期間についての結果です。
その後に行われた大規模研究や、研究の質が高い試験を中心とした解析では、同じ程度の骨癒合期間短縮は確認されていません。
したがって、「LIPUSを使用すれば、すべての骨折が必ず40%早く治る」という意味ではありません。
骨折の部位、骨折型、ずれ、固定方法、年齢、喫煙、栄養状態、骨の状態などによって治癒期間は変わります。
それでも、「骨折したら、ただ骨がつくのを待つだけ」ではなく、骨癒合をサポートする目的で追加できる治療の一つとしてLIPUSがあります。
当院では、骨折の状態を確認し、適応を判断したうえで積極的に活用しています。
骨折治療で一番大切なのは「正しい診断+固定+超音波」
もちろん、超音波だけで骨折を治すわけではありません。
骨折治療で最も重要なのは、
骨折の場所
骨折のずれ
骨折部の安定性
関節への影響
神経・血管損傷の有無
などを正しく診断することです。
必要に応じて、整復・固定・手術・リハビリテーションなどを行います。
そのうえで、骨癒合をサポートする治療として超音波を追加するという考え方です。
当院ではレントゲンなどで骨折部を確認しながら、超音波を照射する位置を決定し、その後も骨癒合の経過を確認します。
骨の治りが遅い場合にも検討します
骨折のなかには、通常より骨癒合に時間がかかるものがあります。
骨の治りが遅れている状態を遷延癒合、さらに骨癒合が進みにくくなった状態を偽関節と呼びます。
こうした場合にもLIPUSが治療選択肢として検討されることがあります。
ただし、
「骨がつかないから、とにかく超音波を当てればよい」
わけではありません。
骨癒合が遅れている場合には、
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骨折部が安定しているか、骨折部に大きな隙間がないか
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感染がないか
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血流に問題がないか
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喫煙の影響がないか
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栄養状態に問題がないか
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骨粗鬆症など骨の状態に問題がないか
なども評価することが重要です。
超音波治療を行いながら、骨がきちんと治る環境が整っているかを整形外科医が確認することが大切です。
超音波治療は骨折だけではありません!
超音波治療の活躍する場所は、骨だけではありません。
治療用超音波は、整形外科・リハビリテーション領域において、筋肉、腱、関節などの運動器疾患に対する物理療法として広く利用されています。
例えば、
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変形性膝関節症
-
筋肉・腱の痛み
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スポーツ障害
-
オーバーユースによる運動器の痛み
などに対して、症状を評価したうえで使用することがあります。
超音波の出力方法によって、機械的作用や温熱作用などを利用できることも特徴です。
変形性膝関節症にも超音波治療
「歩き始めに膝が痛い」
「階段を下りると痛い」
「椅子から立ち上がるときに膝が痛い」
「長く歩くと膝が痛くなる」
こうした症状を起こす代表的な病気が変形性膝関節症です。
治療の基本には運動療法や体重管理などがあり、症状に応じて薬物療法、注射、装具、物理療法などを組み合わせます。
その選択肢の一つが治療用超音波です。
2024年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、21件のランダム化比較試験・1,315人の変形性膝関節症患者が解析されました。
その結果、治療用超音波によって、対照群と比較して疼痛(VAS)の軽減とWOMACによる症状・身体機能の改善が報告されています。
つまり、膝の変形そのものを超音波で元通りにするわけではありませんが、「痛みを軽減し、身体を動かしやすくする」ための治療選択肢として活用できます。
そして症状の改善を図りながら、筋力訓練・可動域訓練・歩行訓練・ストレッチなどを組み合わせることが大切です。
スポーツ障害にも超音波治療
スポーツでは、骨だけでなく筋肉・腱などにも繰り返し負荷がかかります。
そのため治療用超音波は、スポーツ障害のリハビリテーションにおける物理療法として使用されることがあります。
ただし、スポーツ障害の場合も、
「超音波を当てればすぐに競技復帰できる」
わけではありません。
痛みの原因を診断し、患部への負荷調整、柔軟性改善、筋力トレーニング、動作・フォーム改善、段階的な競技復帰などと組み合わせることが重要です。
超音波治療は、こうしたリハビリテーションを進めるための治療手段の一つとして利用します。
超音波治療のメリットは「身体への負担が少ない」こと
超音波治療の大きな特徴は、非侵襲的な治療であることです。
基本的に皮膚を切る必要はありません。
注射をする必要もありません。
通常、治療中に強い痛みを感じることもありません。
そのため、
「骨折を少しでも早く治したい」
「できるだけ早く仕事やスポーツへ復帰したい」
「注射以外の治療も受けてみたい」
「リハビリと組み合わせて治療したい」
という方にとって、検討できる治療選択肢の一つです。
よくある質問
過去のランダム化比較試験をまとめた研究では、保存的に治療された新鮮骨折で、画像上の骨癒合期間が平均36.9%短縮したと報告されています。
ただし、すべての骨折で約40%短縮するという意味ではありません。その後の質の高い研究では同じ効果が確認されていないため、骨折の種類や状態を評価して使用することが重要です。
骨折の種類、部位、治療方法などによって異なります。レントゲンなどで骨折の状態を確認したうえで判断します。
通常、強い痛みを伴う治療ではありません。低強度の超音波を皮膚の上から照射します。
はい。変形性膝関節症などに対して、疼痛軽減や身体機能改善を目的として治療用超音波を使用することがあります。
いいえ。変形した骨を元の形に戻す治療ではありません。痛みや身体機能の改善を目指し、運動療法などと組み合わせて使用します。
症状によって使用することがあります。超音波治療だけではなく、負荷調整、運動療法、筋力・柔軟性改善などと組み合わせて治療します。
まとめ|骨折したら「治るのを待つだけ」ではありません
骨折すると、「固定して、あとは骨がつくまで待つしかない」と思われるかもしれません。
しかし、骨折の状態によっては、骨癒合をサポートするために**低出力パルス超音波治療(LIPUS)**を組み合わせるという選択肢があります。
過去の研究では、保存的に治療された新鮮骨折において、画像上の骨癒合期間が平均36.9%、約4割短縮したという報告もあります。
大切なのは、
正確な診断
+
適切な整復・固定
+
必要に応じた超音波治療
+
適切なリハビリテーション
です。
当院では、骨折の状態を確認したうえで、オステオトロンVによる低出力パルス超音波治療を積極的に取り入れ、骨癒合をサポートしています。
また、変形性膝関節症やスポーツによる運動器の痛みに対しても、症状を評価したうえで治療用超音波を活用しています。
「骨折を少しでも早く治したい」
「仕事やスポーツへできるだけ早く復帰したい」
「自分の症状にも超音波治療が使えるの?」
という方は、ぜひご相談ください。
参考医学論文
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Busse JW, et al. Low intensity pulsed ultrasonography for fractures: systematic review of randomised controlled trials. BMJ. 2009;338.
13件のランダム化比較試験を検討。保存的に治療した新鮮骨折3試験では、画像上の骨癒合期間が平均36.9%短縮したと報告されています。ただし、この結果のエビデンスの質は「low quality」と評価されています。
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Schandelmaier S, et al. Low intensity pulsed ultrasound for bone healing: systematic review of randomized controlled trials. BMJ. 2017;356.
より質の高いRCTを含めて検討したシステマティックレビュー。バイアスリスクの低い試験では、LIPUSによる画像上の骨癒合期間、疼痛、荷重開始時期などの明確な改善は認められませんでした。
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Luo Y, et al. Effects of therapeutic ultrasound in patients with knee osteoarthritis: A systematic review and meta-analysis. Heliyon. 2024;10.
21件のRCT、1,315人を解析。変形性膝関節症に対する治療用超音波で、疼痛(VAS)およびWOMACによる症状・身体機能の改善が報告されています。
監修者情報
整形外科おおつかクリニック
院長 大塚 貴史
骨折治療では、骨折部を正しく整復・固定することに加えて、骨癒合の経過をレントゲンなどで確認しながら治療を進めることが大切です。
当院では、骨折の状態に応じてオステオトロンVによる低出力パルス超音波治療を積極的に活用し、骨癒合をサポートしながら、できるだけ早い日常生活・仕事・スポーツへの復帰を目指します。
また、変形性膝関節症やスポーツ障害などに対しても、診察で痛みの原因を評価したうえで、治療用超音波やリハビリテーションなどを組み合わせ、疼痛軽減と身体機能の改善を目指します。