2026年9月08日

「PDF-FDって最近聞くけど、本当に効果があるの?」
「再生医療ってなんとなく怪しくない?」
「ヒアルロン酸注射を続けているけど、他の治療はないの?」
「できれば手術はしたくない……」
変形性膝関節症で治療を続けている患者さんから、このようなご相談をいただくことがあります。
近年、患者さん自身の血液に由来する成分を利用した治療が、整形外科領域でも注目されています。
当院では、変形性膝関節症などに対する治療選択肢の一つとして**「PDF-FD療法」**を採用しています。
※当院では院内掲示や患者さんへのご案内を含め「PDF-FD」と表記しています。医学論文ではPFC-FD(Platelet-Derived Factor Concentrate Freeze Dry)などの名称で報告されている治療について、本記事では患者さんに分かりやすいよう「PDF-FD」に統一して解説します。
ただし、最初に大切なことをお伝えします。
PDF-FDは、「注射すれば軟骨が元通りになる魔法の治療」ではありません。
では、
PDF-FDには実際どのくらいの効果が期待できるのか?
どんな患者さんに向いているのか?
最新の医学研究ではどこまで分かっているのか?
今回は、PDF-FDのメリットだけでなく、現在分かっている限界まで含めて、整形外科医がわかりやすく解説します。
そもそもPDF-FDとは?
PDF-FDは、患者さん自身の血液を原料として作製する治療材料です。
採血した血液からPRP(多血小板血漿)を作製し、そこから血小板由来の成長因子などを含む成分を取り出して加工し、さらに凍結乾燥(Freeze Dry)処理を行います。
治療時には、これを溶解して膝関節などの患部へ注射します。
大きな特徴は、
「自分自身の血液を原料としている」
ということです。
血小板に由来する成分には、PDGF、TGF-β、VEGFなど、さまざまな成長因子や生理活性物質が含まれます。
これらの成分を利用して、関節内の環境に働きかけ、痛みや症状、身体機能の改善を目指すのがPDF-FD療法です。
PRPとPDF-FDは何が違う?
PDF-FDを理解するには、まずPRPを知っておくと分かりやすいでしょう。
PRPとは、Platelet-Rich Plasma(多血小板血漿)のことです。
患者さん自身の血液を採取し、遠心分離によって赤血球などの成分と血漿成分を分け、その中から血小板を多く含む血漿を取り出して治療に利用します。
血小板には、PDGF、TGF-β、VEGF、IGF-1など、組織の修復や炎症反応に関係するさまざまな成長因子が含まれています。PRP療法では、これらの成分を含む血漿を患部に注射し、関節内の炎症や痛み、組織周囲の環境改善を目指します。
ただし、PRPといっても、作製方法によって内容は異なります。
例えば、
-
血小板をどの程度多く含むか
-
白血球を多く含むか、少なくするか
-
赤血球がどの程度混ざっているか
-
1回だけ注射するのか、複数回注射するのか
といった違いがあります。
そのため、医学論文で「PRP」と書かれていても、すべてのPRPが同じ治療内容とは限りません。治療を検討する際には、単に「PRPかどうか」だけでなく、どのような方法で作製され、どの成分を利用しているのかを確認することが大切です。
一方、PDF-FDは、PRPをさらに加工して作製します。
まず患者さんから採血し、その血液からPRPを作製します。その後、PRPに含まれる血小板を破砕するなどして、血小板由来の成長因子やサイトカインなどの液性成分を取り出します。
この液性成分を凍結乾燥(Freeze Dry)することで、保存や運搬がしやすい状態にしたものがPDF-FDです。治療時には、凍結乾燥された成分を専用の溶解液で戻し、関節内などの患部へ注射します。
つまり、PRPは血小板を多く含む血漿そのものを利用する治療であり、
PDF-FDはPRPに由来する成長因子などの液性成分を加工して利用する治療と考えると分かりやすいでしょう。
そのため、PRPをそのまま注射する治療と、PDF-FDはまったく同じものではありません。
一方で、どちらも患者さん自身の血液を原料とし、血小板に由来する成分を利用して、関節内の炎症や痛み、組織周囲の環境改善を目指すという基本的な考え方には共通点があります。
また、PDF-FDでは血小板そのものを大量に注射するのではなく、血小板由来の成長因子などを含む成分を利用するため、一般的なPRPとは治療材料の性質が異なります。
ただし、PDF-FDを注射したからといって、すり減った軟骨が必ず元通りになるわけではありません。現時点では、膝関節内の環境に働きかけ、痛みや症状、身体機能の改善を目指す治療として理解することが適切です。
なお、PRPやPDF-FDは、作製方法や含まれる成分、注射回数などによって治療内容が異なるため、治療を受ける前には、使用する治療材料の特徴や期待できる効果、限界について医師から十分な説明を受けることが重要です。
PDF-FDは膝にどのような治療をするの?
変形性膝関節症というと、
「膝の軟骨がすり減る病気」
というイメージを持つ方が多いかもしれません。
もちろん軟骨のすり減りは重要な変化ですが、変形性膝関節症は軟骨だけの問題ではありません。
膝の関節の中では、滑膜という組織に炎症が起こることがあります。この炎症によって、膝の痛みや腫れが生じる場合があります。
また、痛みがあると、できるだけ膝を動かさなくなります。その結果、次のような悪循環に陥ることがあります。
膝が痛い
↓
歩いたり動いたりする機会が減る
↓
太ももの筋力が低下する
↓
膝を支える力が弱くなり、膝への負担が増える
↓
さらに痛みが強くなり、動かなくなる
PDF-FDは、患者さん自身の血液に由来する血小板関連の成分を利用し、膝の関節内の環境に働きかける治療です。
これにより、膝の痛みや腫れなどの症状、歩行や日常生活に関わる身体機能の改善を目指します。
ただし、すり減った軟骨を元通りにする治療ではありません。
ヒアルロン酸注射やリハビリテーションなどの保存療法を続けても痛みが残っている方にとって、PDF-FDは新たに検討できる治療選択肢の一つです。
「再生医療」なら、すり減った軟骨が再生するの?
ここは非常に重要なポイントです。
インターネットでは、「再生医療で、すり減った軟骨が再生する」といった説明を見かけることがあります。
しかし、現在の医学的な知見では、「PDF-FDを注射すれば、すり減った関節軟骨が元通りに再生する」と断言することはできません。
PDF-FDは、軟骨を新品の状態に戻す注射ではありません。
膝の痛みや腫れなどの症状を和らげたり、歩行や日常生活などの身体機能を改善したりすることを目指す治療です。
そのため当院では、PDF-FDを「軟骨を元通りにする治療」ではなく、「膝の症状や身体機能の改善を目指す治療」と考えています。
治療を受ける際は、過度な期待を持つのではなく、
「この治療で何を改善したいのか」
「どのような効果が期待でき、どこまで分かっているのか」
を理解したうえで選択することが大切です。
PDF-FDって実際どうなん?312人を調べた臨床研究
ここが一番気になるところではないでしょうか。
2023年、変形性膝関節症に対するPDF-FDについて、312人を対象とした前向き臨床研究が報告されています。
平均年齢は約63歳。
PDF-FDを膝関節内へ注射した後、1か月・3か月・6か月・12か月と経過を追跡しました。
その結果、疼痛を評価するVASや、膝の症状・機能などを評価するKOOSで改善が認められました。
そして主要解析では、
12か月時点で約62%が「臨床的改善」の基準を満たした
と報告されています。
これはPDF-FDを検討している患者さんにとって、非常に興味深い臨床データです。
注目!比較的軽度の変形性膝関節症で良好な傾向
この研究でもう一つ注目したいのが、変形性膝関節症の進行度によって治療反応が異なったことです。
レントゲンで変形性膝関節症の程度を評価する指標に、Kellgren-Lawrence(KL)分類があります。
研究では、比較的軽度のKL Grade 1~2では12か月時点で約70%がレスポンダーだった一方、高度に進行した**Grade 4では約41%**でした。
またGrade 4の患者さんはGrade 1~2と比較して、レスポンダーになりにくい傾向が示されました。
つまりPDF-FDは、「膝がどうしようもなく悪くなってから受ける最後の治療」として考えるより、
「まだ保存療法で症状改善を目指せる段階で検討する」という考え方も重要です。
もちろん、誰に効果が出るのかを治療前に100%予測することはできません。
こんな方はPDF-FDを一度検討してみてもよいかもしれません
例えば、
「ヒアルロン酸注射を続けているけれど、まだ膝が痛い」
「飲み薬だけに頼りたくない」
「リハビリをしているけれど、もう一つ治療の選択肢がほしい」
「膝の痛みで旅行やスポーツを諦めたくない」
「できるだけ手術を避けたい」
「まだ人工膝関節を考える段階ではないと言われている」
という方には、PDF-FDについて一度相談してみる価値があります。
特に重要なのは、
「PDF-FDを打てるかどうか」ではなく、「今の自分の膝にPDF-FDを選択する意味があるかどうか」
です。
変形の程度、痛み、腫れ、関節可動域、年齢、活動性、これまで受けてきた治療などを確認して判断する必要があります。
PDF-FD+リハビリという考え方
PDF-FDを注射して痛みが軽減したとしても、
太ももの筋力低下
膝の可動域低下
歩き方の問題
股関節や足関節の機能低下
などが残っていれば、膝にかかる負担そのものは十分に改善しません。
2026年には、PDF-FDとリハビリテーションを組み合わせた変形性膝関節症患者17人の予備的な観察研究も報告されています。
3か月時点で、70.6%がOMERACT-OARSIのレスポンダー基準を満たしたと報告されました。
ただし、17人という小規模な後ろ向き観察研究であり、比較対照群もありません。
したがって、「PDF-FDとリハビリを組み合わせれば70%以上の人に効く」という意味ではありません。
それでも、
PDF-FDで症状改善を目指す
+
リハビリで膝を支える身体機能を改善する
という考え方は非常に重要です。
当院でも、PDF-FDだけに頼るのではなく、患者さんの状態に応じてリハビリテーションを組み合わせ、膝を総合的に治療することを重視しています。
PDF-FDのメリットは?
PDF-FDの大きな特徴は、患者さん自身の血液を原料としていることです。
また、専門施設で加工・凍結乾燥することにより、治療に使用する成分を保存できるという特徴があります。
治療そのものは関節内注射ですので、大きな手術を必要としません。
2023年の312人の研究では、6%に非重篤な有害事象が認められ、その多くは注射部位の痛みや腫れでした。
重篤な有害事象は報告されていませんでした。
ただし、関節内注射である以上、感染など注射に伴う一般的なリスクがゼロになるわけではありません。
PDF-FDのデメリット・限界も知っておきましょう
PDF-FDにも限界があります。まず、効果には個人差があります。全員に同じような改善が得られる治療ではありません。
また、現時点では、
「すり減った軟骨が元通りになる」
「変形性膝関節症そのものが完治する」
「人工膝関節手術を必ず回避できる」
と証明された治療ではありません。
さらに、PDF-FDは一般的に自由診療として行われる治療です。
治療費も含め、メリットと限界の両方を理解したうえで選択することが大切です。
PRPの最新研究から見えてきたこと
PDF-FDそのものについては、まだ質の高いランダム化比較試験が十分にそろっているとは言えません。
一方、関連するPRPについては世界中で多くの臨床研究が行われています。
2026年に発表された最新のシステマティックレビュー・メタ解析でも、PRPは変形性膝関節症の疼痛や身体機能改善について検討されています。
一方で、研究によってPRPの作製方法、血小板濃度、白血球の量、注射回数などが異なるため、結果にはばらつきがあります。
つまり現在の医学的な位置づけは、
「血小板由来の治療には期待できる臨床データが増えている。しかし、誰にどの方法が最も有効なのかについては、まだ研究が続いている」
と考えるのが適切です。
よくある質問
効果には個人差があります。
312人を対象とした前向き研究の主要解析では、12か月時点で約62%が臨床的改善の基準を満たしました。
ただし、比較対照群のない研究なので、「PDF-FDの有効率が62%」と断定することはできません。
現時点では、PDF-FDによってすり減った関節軟骨が元通りに再生すると証明されているわけではありません。
主な目的は、膝の痛みや症状、身体機能の改善を目指すことです。
ヒアルロン酸注射、薬物療法、運動療法などを行っても症状が残っている方で、手術以外の治療を検討したい場合などが候補になります。
2023年の研究では、高度に進行した変形性膝関節症より、比較的軽度の変形性膝関節症で良好な反応がみられました。
はい。
これまでの治療内容を確認したうえで、PDF-FDを含めた次の治療方法を検討します。
手術回避を保証する治療ではありません。
変形が高度で日常生活に大きな支障がある場合には、人工膝関節などの手術の方が適している場合もあります。
PDF-FDとリハビリでは役割が異なります。
PDF-FDによる症状改善を目指すことに加え、筋力、柔軟性、関節可動域、歩行などを改善することも重要です。
当院では患者さんの状態に応じて、リハビリテーションを組み合わせた治療を検討します。
まとめ|PDF-FDは「魔法の注射」ではない。でも、手術の前に知っておきたい選択肢
PDF-FDは、患者さん自身の血液に由来する血小板関連因子を利用して、膝の痛みや身体機能の改善を目指す治療
です。
312人を対象とした臨床研究では、主要解析で12か月時点に約62%が臨床的改善の基準を満たしたと報告されています。
また、比較的軽度の変形性膝関節症では、高度に進行した変形性膝関節症より良好な治療反応がみられました。
一方で、
軟骨が元通りに再生することが証明された治療ではない
全員に効果があるわけではない
進行した変形性膝関節症では効果が得られにくい可能性がある
という限界もあります。
だからこそ大切なのは、「再生医療だからすごい」というイメージだけで治療を選ぶことではありません。
レントゲンや診察で現在の膝の状態を確認し、
ヒアルロン酸注射を続けるのか
リハビリを強化するのか
PDF-FDを検討するのか
手術を考える段階なのか
を一人ひとり判断することが重要です。
当院では、変形性膝関節症に対する治療選択肢の一つとしてPDF-FD療法を採用しています。
「ヒアルロン酸注射を続けているけれど、まだ痛い」
「できるだけ手術は避けたい」
「これまでの治療以外の選択肢を知りたい」
「自分の膝にPDF-FDが向いているのか知りたい」
という方は、一度ご相談ください。
PDF-FDをすることを前提にするのではなく、まず現在の膝の状態を診断し、本当に適した治療なのかを一緒に考えていきます。
最新医学論文
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Ohtsuru T, et al. Freeze-dried noncoagulating platelet-derived factor concentrate is a safe and effective treatment for early knee osteoarthritis. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2023;31:4716-4723.
変形性膝関節症患者312人を対象とした前向き研究です。主要解析では12か月時点で62%がOMERACT-OARSI responder criteriaを満たしました。また、変形が高度なKL Grade 4ではGrade 1~2より治療反応が得られにくい傾向が報告されています。
-
Preliminary Clinical Outcomes of Biotherapy Combined With Rehabilitation for the Treatment of Knee Osteoarthritis: A Retrospective Observational Study. 2026.
PDF-FDとリハビリテーションを組み合わせた17人の予備的観察研究です。3か月時点で70.6%がレスポンダー基準を満たしました。ただし、小規模・後ろ向き・非対照研究であり、今後さらに質の高い研究が必要です。
-
Liu HW, et al. Effectiveness of Platelet-Rich Plasma in Knee Osteoarthritis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Int J Rheum Dis. 2026.
変形性膝関節症に対するPRPのランダム化比較試験を検討した2026年のシステマティックレビュー・メタ解析です。PRPによる疼痛・身体機能改善の可能性が報告されていますが、治療プロトコルの標準化や、より大規模なRCTによる検証が必要とされています。
監修者情報
整形外科おおつかクリニック
院長 大塚 貴史
変形性膝関節症の治療では、「レントゲンで変形があるから仕方がない」と考えるのではなく、痛みの程度、変形の進行度、筋力、関節可動域、生活スタイルなどを総合的に評価することが大切です。
当院では、一般的な保存療法やリハビリテーションに加え、PDF-FD療法も治療選択肢の一つとして採用しています。
特に、
「まだ手術はしたくない」
「ヒアルロン酸注射など、これまでの治療だけでは十分に改善しない」
「もう一つ治療の選択肢を増やしたい」
という患者さんには、PDF-FDのメリットだけでなく、現在分かっている限界についてもご説明したうえで、患者さん一人ひとりに合った治療を一緒に考えていきます。