2026年9月10日

「膝に水が溜まっていますね」
整形外科でそう言われた経験がある方も多いのではないでしょうか。
でも、患者さんからすると、
「そもそも膝の水って何?」
「どこから水が入ってくるの?」
「水を抜いたらまた溜まるんじゃないの?」
「何回も抜くとクセになるって聞いたけど本当?」
と疑問だらけだと思います。
最初に結論をお伝えすると、
膝の「水」とは、外から入ってきた水ではありません。
膝関節の中にもともと存在している関節液が、炎症やケガなどによって通常より増えた状態です。
医学的には関節水腫(かんせつすいしゅ)、英語ではjoint effusionなどと呼びます。
そして大切なのは、
「水が溜まったこと」そのものより、なぜ水が増えたのかを調べること
です。
今回は、膝に水が溜まる仕組み、水を抜く意味、繰り返す原因、治療方法について、整形外科医がわかりやすく解説します。
そもそも膝の「水」って何?
膝関節は、大腿骨、脛骨、膝蓋骨などからできています。
関節の内側は滑膜(かつまく)という組織で覆われており、そこから少量の関節液が分泌されています。
この関節液には、
-
関節を滑らかに動かす
-
軟骨表面の摩擦を減らす
-
軟骨へ栄養を届ける
といった役割があります。
つまり、関節液そのものは悪者ではありません。健康な膝にも存在しています。
問題になるのは、関節の中で炎症などが起こり、必要以上に関節液が増えてしまった時です。
これが一般的に、「膝に水が溜まった」と言われる状態です。
なぜ膝に水が溜まるの?
イメージとしては、
膝の中で何か問題が起こる
↓
滑膜などに炎症が起こる
↓
関節液の産生と吸収のバランスが崩れる
↓
関節液が増える
↓
膝が腫れてパンパンになる
という流れです。
したがって、水そのものが病名ではありません。
「膝の中で何らかの異常が起きていますよ」というサインの一つと考えると分かりやすいでしょう。

最も多い原因の一つが「変形性膝関節症」
中高年の患者さんで膝に水が溜まる原因として、非常によくみられるのが変形性膝関節症です。
変形性膝関節症は、「軟骨がすり減る病気」と思われがちですが、それだけではありません。
病気が進行すると、軟骨、半月板、骨、滑膜など、膝関節全体にさまざまな変化が起こります。
その中でも滑膜炎が起こると、関節液が増えて膝が腫れることがあります。
近年の研究でも、変形性膝関節症における滑膜炎や関節液貯留は、単なる付随所見ではなく、痛みや病態と関連する重要な要素として研究されています。
2025年のレビューでは、MRIや超音波を用いた変形性膝関節症の滑膜炎評価に関する251報の研究がまとめられ、滑膜炎と関節液貯留は関連しながらも同じものではなく、分けて評価する必要性が指摘されています。
つまり、「レントゲンで軟骨が減っているから痛い」だけではなく、
膝の中で炎症が起きて腫れていることも症状に関係しているのです。
水が溜まると、どんな症状が出る?
関節液が増えると、
-
膝が腫れる、膝が重く感じる、膝の裏が突っ張る
-
曲げにくい、正座しにくい
-
歩くと痛い
といった症状が出ることがあります。
特に関節液が多くなると、膝のお皿の周囲が腫れたり、膝を深く曲げた時に圧迫感を感じたりします。
ただし、水の量と痛みの強さが必ず比例するわけではありません。
変形性膝関節症についてのシステマティックレビューでは、滑膜炎と疼痛には関連がみられるものの、その関連の強さは弱~中等度であり、関節液貯留と痛みの関係については研究結果にばらつきがあります。
水が多い人ほど必ず痛い、という単純な関係ではないのです。
膝に水が溜まる原因は変形性膝関節症だけではありません
ここは非常に重要です。
「膝に水が溜まった=加齢による変形性膝関節症」
とは限りません。
膝に水が溜まる原因には、ほかにもさまざまなものがあります。
例えば、
-
半月板損傷、前十字靱帯などの靱帯損傷
-
軟骨損傷、膝蓋骨周囲の障害
-
関節リウマチなどの炎症性関節疾患
-
痛風、偽痛風(CPPD結晶沈着症)
-
細菌性の感染性関節炎
などがあります。
スポーツや転倒の直後に急激に膝が腫れた場合には、単なる関節液ではなく**関節内出血(血腫)**が起きていることもあります。
だからこそ、
「水が溜まったから、とりあえず抜けばいい」
だけでは不十分なのです。
「水を抜く」って実際には何をしているの?
膝に大量の関節液が溜まっている場合、状態に応じて**関節穿刺(かんせつせんし)**を行うことがあります。
これは膝関節内に細い針を入れて、溜まっている関節液を吸引する処置です。
関節液を抜くことには、大きく二つの意味があります。
一つは、膝の圧迫感や張りを軽減すること。
もう一つは、非常に重要な、
「関節液を調べること」
です。
抜いた関節液は、透明に近いのか?黄色く濁っているのか?血液が混ざっているのか?
などを確認します。
必要に応じて、白血球数、細菌培養、結晶などを調べることで、原因の診断につなげます。
「水を抜いたらクセになる」って本当?
これは整形外科で非常によく聞かれる質問です。
患者さんから、「一回抜いたら、ずっと抜かないといけなくなるんでしょ?」と言われることがあります。
しかし、
水を抜いたこと自体が原因で、水が作られやすい体質になるわけではありません。
では、なぜ抜いてもまた溜まるのでしょうか?
答えは比較的シンプルです。水を作っている原因がまだ残っているからです。
例えば変形性膝関節症で滑膜炎が続いていれば、
水を抜く
↓
一時的に膝が楽になる
↓
炎症が続いている
↓
再び関節液が増える
ということがあります。
つまり、「抜いたから溜まった」のではなく、「原因となる炎症などが続いているから再び溜まった」と考える方が正確です。
では、水は毎回抜いた方がいいの?
ここも、「溜まったら必ず抜く」というものではありません。
水の量、痛み、膝の張り、原因、病気の経過などによって判断します。
少量の関節液で症状が軽ければ、原因となる病気を治療しながら経過を見ることもあります。
一方、
-
膝が強く腫れて曲げにくい
-
急に大量の水が溜まった
-
感染症や結晶誘発性関節炎などを疑う
といった場合には、関節穿刺が診断・治療の両面で重要になることがあります。
急に「真っ赤・熱い・激痛」なら注意!
膝に水が溜まった時に最も見逃してはいけないものの一つが、感染性関節炎です。
膝関節の中に細菌が入り、強い炎症を起こします。
典型的には、急激な強い膝痛・腫れ・熱感・動かすと非常に痛いなどを認めます。
発熱を伴う場合もありますが、熱がないから感染ではないとは言い切れません。
感染性関節炎は関節軟骨を短期間で障害する可能性があり、緊急性の高い病気です。
国際的なSANJOガイドラインでも、感染性関節炎が疑われる場合にはできるだけ速やかに関節液を採取し、細菌検査、白血球数、結晶検査などを行うことが推奨されています。
「いつもの膝の水だろう」と放置しないことが大切です。
痛風・偽痛風でも水が溜まります
突然、膝がものすごく痛くなった・腫れて熱を持ったという場合、痛風や偽痛風などの結晶誘発性関節炎も考えます。
痛風では尿酸結晶、偽痛風では主にピロリン酸カルシウム結晶が炎症を引き起こします。
この場合にも関節液を採取し、顕微鏡で結晶を確認することが診断に役立ちます。
特に高齢者で、昨日まで普通だったのに、突然膝がパンパンに腫れて歩けないという場合には、「変形性膝関節症の水」と決めつけないことが重要です。
「水を抜けば治る」わけでもありません
水を抜くことで膝の張りや圧迫感が軽減する場合はあります。
しかし、水はあくまで結果として増えているものです。
変形性膝関節症が原因なら、関節穿刺だけを繰り返すのではなく、体重管理・薬物療法・運動療法・リハビリテーション・必要に応じた注射治療などを組み合わせて、膝全体を治療することが大切です。
2024年に発表された変形性膝関節症の非手術治療とMRI上の滑膜炎を検討したシステマティックレビューでも、治療による疼痛改善と滑膜炎の変化は必ずしも同じように動くわけではなく、膝OAの炎症は複雑であることが示されています。
だからこそ、
「水だけを見るのではなく、膝全体を見る」
ことが重要なのです。
水が引いたら運動してもいいの?
変形性膝関節症では、痛いからといってずっと安静にしていると、
太ももの筋力が落ちる
↓
膝を支える力が弱くなる
↓
歩きにくくなる
↓
さらに活動量が減る
という悪循環につながることがあります。
急性の強い炎症がある時に無理をする必要はありません。
しかし、症状が落ち着いてきたら、状態に応じて運動療法や運動器リハビリテーションを行い、
・大腿四頭筋などの筋力・膝の可動域・歩き方・股関節や足関節の機能を整えていくことが重要です。
「水を抜いて終わり」ではなく、その先の治療まで考えることが大切です。
何度も水が溜まる人はどうしたらいい?
「もう5回も水を抜いています」という患者さんもいらっしゃいます。
この場合に大切なのは、
「また水を抜くかどうか」より、「なぜ繰り返しているのか」を考えることです。
変形性膝関節症が進行しているのか。
滑膜炎が強いのか。
半月板や軟骨など別の問題がないのか。
結晶誘発性関節炎などが隠れていないのか。
必要に応じてレントゲン、超音波、MRI、血液検査、関節液検査などを使い分けながら原因を評価します。
近年の画像研究でも、膝OAの滑膜炎・関節液貯留の評価にはMRIと超音波が広く利用されていますが、2025年のレビューでは現時点で最も優れた評価方法について統一された見解はないとされています。
検査は「全部やればよい」のではなく、患者さんの症状に応じて必要なものを選ぶことが重要です。
よくある質問
正常な関節液は透明~淡黄色で、粘りがあります。
炎症が強くなると濁ることがあり、外傷では血液が混ざることもあります。
色だけですべて診断できるわけではなく、必要に応じて細胞数、細菌、結晶などを調べます。
水を抜く処置そのものが原因で、関節液が溜まりやすくなるわけではありません。
再び水が溜まる場合には、関節内の炎症など原因が続いている可能性を考えます。
原因と症状によります。
軽度の変形性膝関節症などでは、痛みのない範囲で活動を維持することが重要です。
ただし、急激に腫れた、激痛がある、熱を持っている、体重をかけられない場合は、無理に歩かず受診してください。
水を抜くことで張りや痛みが軽くなる場合がありますが、原因となる病気そのものが治ったとは限りません。
原因に応じた治療が必要です。
必ずしも変形の重症度だけで決まるわけではありません。
滑膜炎、半月板、結晶誘発性関節炎など、複数の原因を考える必要があります。
強い痛み、腫れ、熱感、発赤が急に出た場合には、感染性関節炎や結晶誘発性関節炎などを除外する必要があります。
特に体調不良や発熱を伴う場合には、早めに医療機関を受診してください。
まとめ|「水を抜くか」より「なぜ水が溜まったか」が大切
膝に水が溜まるというのは、関節の中にもともと存在している関節液が、炎症やケガなどによって通常より増えた状態です。
変形性膝関節症でよくみられますが、半月板損傷・靱帯損傷・痛風・偽痛風・感染性関節炎など、さまざまな原因があります。
そして、
「水を抜いたらクセになる」
という考え方は正確ではありません。
何度も水が溜まる場合には、水を抜いたから再発したのではなく、関節液が増える原因が残っている可能性を考える必要があります。
当院では、単に「膝の水を抜いて終わり」ではなく、なぜ関節液が増えているのかを診察・画像検査などで評価し、その原因に応じた治療を考えることを大切にしています。
変形性膝関節症であれば、必要に応じて薬物療法、注射治療、物理療法、運動器リハビリテーションなどを組み合わせます。
「最近、膝がパンパンに腫れる」
「何度も水を抜いている」
「膝が曲げにくくなってきた」
「水を抜いた方がいいのか分からない」
という方は、一度整形外科で膝の状態を確認しましょう。
大切なのは、
水を抜くことではなく、水が溜まる原因を治療することです。
最新医学論文・ガイドライン
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Webster KE, et al. Imaging-based measures of synovitis in knee osteoarthritis: A scoping review and narrative synthesis. 2025.
変形性膝関節症における滑膜炎の画像評価について251報をまとめたレビューです。MRIが最も多く使用され、次いで超音波が利用されていました。一方、滑膜炎と関節液貯留は区別して評価する必要性が指摘されています。
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Gottreich JR, Katz JN, Jones MH. Nonsurgical Knee Osteoarthritis Treatments for Reducing Inflammation as Measured on MRI Scans: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials. Orthop J Sports Med. 2024;12(12).
変形性膝関節症における非手術治療について、疼痛とMRI上の滑膜炎の変化を調べたRCTをまとめたシステマティックレビューです。膝OAにおける滑膜炎が重要な研究対象となっていることを示しています。
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Dainese P, et al. Association between knee inflammation and knee pain in patients with knee osteoarthritis: a systematic review. Osteoarthritis Cartilage. 2022;30(4).
変形性膝関節症における炎症と疼痛の関連を37研究から検討したシステマティックレビューです。滑膜炎と痛みには中等度のエビデンスがある一方、関節液貯留と疼痛の関係については結果にばらつきがあると報告されています。
-
Ravn C, et al. Guideline for management of septic arthritis in native joints(SANJO). J Bone Jt Infect. 2023;8:29-37.
感染性関節炎の診断・治療に関する国際ガイドラインです。感染性関節炎が疑われる場合には速やかな関節穿刺を行い、関節液の細菌検査、白血球数、結晶の評価などを行うことが推奨されています。
監修者情報
整形外科おおつかクリニック
院長 大塚 貴史
「膝に水が溜まった」と言われると、水そのものを悪者だと思ってしまう患者さんは少なくありません。
しかし、本当に重要なのは、なぜ関節液が増えたのかを考えることです。
変形性膝関節症による滑膜炎なのか、外傷なのか、半月板など別の問題なのか。突然強く腫れた場合には、痛風・偽痛風や感染性関節炎なども考える必要があります。
当院では、膝の腫れだけを見るのではなく、痛みの場所、関節の動き、レントゲンなどの画像所見を確認し、必要に応じて関節液の検査も行いながら原因を判断します。
そして、関節穿刺だけを繰り返すのではなく、原因に応じて薬物療法、注射治療、物理療法、運動器リハビリテーションなどを組み合わせ、「水が溜まっている膝」ではなく「その人の膝全体」を治療することを大切にしています。