2026年9月16日

「五十肩は固まるから、とにかく動かした方がいいですよね?」
「痛くても我慢してストレッチした方が早く治りますか?」
「逆に、痛い間は動かさない方がいいんでしょうか?」
四十肩・五十肩の患者さんから非常によく聞かれる質問です。
結論から言うと、「ずっと安静」も「痛みを我慢して無理やり動かす」もおすすめできません。
大切なのは、現在の痛みの強さや肩の硬さに合わせて、運動の強度を変えることです。
四十肩・五十肩、特に凍結肩では、痛みが非常に強い時期もあれば、痛みは少し落ち着いたものの肩がガチガチに硬くなる時期もあります。
同じ体操を、同じ強さで、全員に行えばよいわけではありません。
今回は第2回として、
・自宅で何をすればいいのか
・何をしてはいけないのか
・運動器リハビリでは何をしているのか
を、最新の医学的知見をもとに詳しく解説します。
まず覚えてほしいこと|「痛いほど効く」は間違いです
五十肩になると、「固まったら大変だから、痛くても動かしなさい」と言われることがあります。
確かに、肩をまったく動かさない状態が長期間続くことは望ましくありません。
しかし、強い痛みを我慢して無理やり肩を伸ばせば、早く治るわけではありません。
特に、夜間痛や安静時痛が強い時期では、刺激の強すぎるストレッチによって痛みが増すことがあります。
2025年の凍結肩診療ガイドラインでも、運動療法や徒手療法などは治療選択肢とされていますが、患者さんの状態に応じて適切に行うことが重要とされています。
2026年の31研究をまとめたシステマティックレビュー・メタ解析でも、運動を含むリハビリ介入は痛み、機能、可動域に小さいながら改善を認めましたが、研究によるばらつきが非常に大きく、「この運動をこの回数すれば全員治る」という方法は確立されていません。
五十肩は「今どんな状態か」で運動を変える
凍結肩は、従来、
・痛みが強くなりながら硬くなる時期
・硬さが目立つ時期
・徐々に動きが戻ってくる時期
という経過で説明されてきました。
ただし、実際の患者さんではきれいに3段階に分かれるとは限りません。
そのため当院では、今は痛みが主体なのか
それとも、痛みは落ち着いて、硬さが主体なのか
という視点を大切にします。
① 夜も痛い・じっとしていても痛い時期
「何もしなくてもズキズキする」
「夜中に肩が痛くて目が覚める」
「寝返りだけで激痛が走る」
という場合は、強いストレッチを行う時期ではありません。
この時期の目標は、無理に可動域を広げることより、まず痛みを悪化させないこと。
肩を完全に固定する必要はありませんが、痛みのない範囲で軽く動かす程度から始めます。
日常生活でも、高い棚の物を無理に取る、後ろへ強く手を回す、痛い方向へ反動をつけて伸ばす、といった動きは控えましょう。
痛みが強い場合には、鎮痛薬や関節内ステロイド注射などを組み合わせることもあります。
2025年の診療ガイドラインでは、関節内ステロイド注射が推奨され、理学療法との併用も有用な選択肢とされています。
自宅でできる運動① 振り子運動
痛みが強い時期にも比較的取り入れやすい方法の一つが、**振り子運動(コッドマン運動)**です。
机や椅子に痛くない側の手をつき、少し前かがみになります。
痛い方の腕は力を抜いて下へ垂らし、身体を軽く揺らすことで腕を小さく前後・左右へ動かします。
ポイントは、「腕の力でグルグル回そうとしない」ことです。
肩の筋肉に力を入れて大きく回す運動ではありません。
まずは小さな動きから行い、痛みが強くなる場合には中止してください。

② 痛みが少し落ち着いて、肩の硬さが目立つ時期
「じっとしていればそれほど痛くない」
「夜は以前より眠れるようになった」
「でも肩が上がらない」
という状態になってきたら、徐々に可動域を取り戻していきます。
この段階では、・挙上・外旋・内旋など、制限されている方向を確認しながら運動します。
ただし、一気に正常可動域まで取り戻そうとしないこと。
少しずつ動かせる範囲を広げていくことが重要です。
2023年のシステマティックレビュー・メタ解析では、運動療法単独でも、関節モビライゼーションを組み合わせた方法でも、可動域や自覚症状の改善が報告されています。重要なのは、患者さんの症状や可動域に応じて運動量を調整することとされています。
自宅でできる運動② テーブルスライド
椅子に座り、机の上に両手を置きます。
肩の力を抜いたまま、身体をゆっくり後方へ移動させる、あるいは手を前へ滑らせます。
腕だけで無理に持ち上げるのではなく、身体の動きを利用して肩を少しずつ上げていきます。
「少し張る」程度で止め、強い痛みが出るところまで押し込まないようにしましょう。

自宅でできる運動③ 反対の手で補助して上げる
仰向けになり、痛くない側の手で痛い側の腕を補助しながら、ゆっくり頭の方向へ上げていきます。
自力だけで上げようとすると肩周囲の筋肉に力が入りすぎる方でも、反対側の手を使うことで比較的楽に動かせる場合があります。
これも「どこまで上がったか」を競う必要はありません。
毎日少しずつ、痛みが悪化しない範囲で行います。

自宅でできる運動④ 外旋運動
凍結肩では、特に外旋の制限が目立つことがあります。
肘を身体の横につけた状態で、棒やタオルなどを使い、痛くない側の手で痛い側の前腕をゆっくり外側へ誘導します。
強く押し込まず、「ここまでなら無理なく動かせる」という範囲で行いましょう。

「背中に手を回す運動」は焦らなくて大丈夫
五十肩の患者さんが非常に困るのが、・エプロンの紐を結べない・下着を着けにくい・ズボンの後ろポケットに手が届かないという「結帯動作」です。
この動きを取り戻そうとして、タオルを使って背中側から腕を強く引っ張る方がいます。
しかし、痛みの強い時期に無理やり引っ張る必要はありません。
結帯動作には肩関節の内旋だけでなく、肩甲骨や肘など複数の動きが関係します。
まずは他の方向の可動域を改善しながら、症状を見て段階的に練習していきます。
リハビリでは「肩を上げる練習」だけをしているわけではありません
当院で運動器リハビリを重視している理由はここです。
五十肩のリハビリというと、「固まった肩を理学療法士にグイグイ動かしてもらう」というイメージがあるかもしれません。
しかし、実際にはそれだけではありません。
理学療法では、肩関節そのものの可動域だけでなく、肩甲骨、胸椎、筋力、日常生活動作、痛みの出方などを確認します。
例えば、肩関節が硬くなると、腕を上げようとして肩甲骨を必要以上に持ち上げたり、身体を反らしたりして代償することがあります。
そこで、本当に肩関節が動いているのか? 肩甲骨だけで無理にかばっていないか? どの方向が特に硬いのか? どの運動なら痛みを増やさず行えるのか?を評価しながら、患者さんごとに運動内容を調整します。
2026年には、関節モビライゼーションについてもシステマティックレビュー・メタ解析が報告されていますが、手技による差が示唆される一方、患者さん全員に一つの方法が最適と断定できるものではありません。
「リハビリ+自宅での運動」が大切
リハビリを週に数回受けても、それ以外の時間の方が圧倒的に長くなります。
そのため、医療機関でのリハビリと、自宅で無理なく続けられる運動をセットで考えることが重要です。
過去の大規模ネットワークメタ解析では、凍結肩に対する関節内ステロイド注射は短期的な疼痛・機能改善に有用で、簡単なホームエクササイズを併用することで、その後の改善につながる可能性が示されています。
ただし、たくさん体操すればするほど早く治るという意味ではありません。
やりすぎのサインを覚えてください
運動中に少し張る程度であれば問題ないこともあります。
しかし、
・運動したあと何時間も強く痛む
・その日の夜間痛が明らかに悪化する
・翌日まで痛みが強く残る
・運動を続けるたびに症状が悪化する
という場合には、負荷が強すぎる可能性があります。
運動は、「やった量」より「翌日まで悪化させず継続できる量」を意識してください。
これはやらないで|五十肩でありがちなNG行動
五十肩では、次のような行動はおすすめできません。
1:痛みを我慢して他人に腕を強く引っ張ってもらう
2:反動をつけて無理やり肩を上げる
3:夜間痛が強いのに強いストレッチを何度も繰り返す
4:「動かすと怖い」と何か月もまったく肩を動かさない
5:YouTubeなどの体操を、現在の状態を無視して全部行う
6:「五十肩だから」と診断を受けず長期間放置する
特に最後は重要です。
腱板断裂や石灰沈着性腱板炎など、五十肩に似た別の病気では治療方法が異なることがあります。
寝る時はどうすればいい?
夜間痛が強い患者さんでは、寝方を少し工夫するだけで楽になる場合があります。
痛い肩を下にして寝るのがつらければ避け、仰向けで寝る場合には、痛い側の肘から腕の下にタオルやクッションを置き、腕が少し支えられる位置にすると楽になることがあります。
横向きの場合は、痛くない側を下にして、痛い方の腕をクッションなどで支える方法もあります。
「この姿勢が医学的に絶対正しい」というものではありません。
一番眠りやすく、肩の痛みが少ない姿勢を探してください。
温める?冷やす?
これもよく聞かれます。
慢性的な硬さが主体で、入浴すると動きやすくなる方では、入浴後に軽い運動を行う方法があります。
一方、運動後に肩が強く熱を持つ、ズキズキ痛む場合には冷却すると楽になることもあります。
重要なのは、「五十肩だから絶対温める」「炎症だから絶対冷やす」と一律に決めないことです。
楽になる方法を症状に応じて使い分けます。
よくある質問
適切な運動を継続することは大切ですが、強い痛みを我慢して毎日大量に行う必要はありません。
現在の症状に合った運動量を選びましょう。
いいえ。
強い痛みに耐えることと、治療効果は同じではありません。
痛みや病期に合わせて刺激量を調整することが重要です。
強い夜間痛・安静時痛がある時期に、可動域を広げようとして激しいストレッチを行うことはおすすめしません。
まず痛みをコントロールしながら、痛みのない範囲で軽く動かします。
個人差が大きく、数か月で改善する方もいれば、1年以上症状が残る方もいます。最近のレビューでも、凍結肩はすべての患者さんが自然に完全回復するとは限らないことが指摘されています。
リハビリは重要な治療の一つですが、症状によっては薬物療法や関節内ステロイド注射などを組み合わせた方がよい場合があります。
まとめ|五十肩は「頑張って動かす」より「上手に動かす」
四十肩・五十肩のセルフケアで一番大切なのは、痛みを我慢して無理やり動かすことではありません。
痛みの強い時期には、まず痛みを悪化させない。
痛みが落ち着いてきたら、少しずつ可動域を広げる。
さらに動きが戻ってきたら、筋力や肩甲骨の動き、日常生活動作まで整えていく。
このように段階的に進めることが大切です。
そして、
「痛くても動かせと言われたから毎日無理している」
「何か月も体操しているのに全然良くならない」
「むしろどんどん肩が硬くなってきた」
という場合には、自宅で頑張り続ける前に、一度肩の状態を確認しましょう。
最新医学論文・ガイドライン
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Hamed-Hamed D, et al. Rehabilitation of Frozen Shoulder: A Systematic Review and Meta-Analysis of Multifactorial Interventions. Pain Res Manag. 2026;2026.
31研究を対象とした最新のシステマティックレビュー・メタ解析です。運動介入は痛み、機能、可動域について小さいながら統計学的な改善を示しました。一方で研究間のばらつきが大きく、エビデンスの確実性は非常に低いと評価されており、患者さんごとの個別化が重要です。
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Khandaloo A, Delkhoush CT, Ehsani F. Comparative efficacy of different joint mobilization techniques in shoulder adhesive capsulitis: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. J Man Manip Ther. 2026.
凍結肩に対する関節モビライゼーションを比較した最新のシステマティックレビュー・メタ解析です。手技によって疼痛、機能、可動域への効果に差がみられる可能性が報告されています。
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Lee BC, et al. Clinical Practice Guidelines for Diagnosis and Non-Surgical Treatment of Primary Frozen Shoulder. Ann Rehabil Med. 2025;49(3):113-138.
凍結肩の診断・保存治療に関する2025年の診療ガイドラインです。運動、徒手療法などの非侵襲的治療に加え、関節内ステロイド注射や理学療法との併用などについてエビデンスに基づく推奨がまとめられています。
監修者情報
整形外科おおつかクリニック
院長 大塚 貴史
四十肩・五十肩の患者さんから、「痛くても動かした方がいいですか?」とよく聞かれます。
大切なのは、「動かす・動かさない」の二択ではありません。
今は痛みが強い時期なのか、関節の硬さが主体なのか、どの方向に動きが悪いのかを確認し、その状態に合った運動を行うことが重要です。
当院では、痛みを抑える治療だけで終わるのではなく、運動器リハビリテーションを通じて肩関節の可動域、肩甲骨の動き、筋力、日常生活動作まで評価し、段階的な機能回復を目指します。
また、必要に応じて薬物療法、注射治療、物理療法などを組み合わせます。
「五十肩だから家で体操しておけばいい」と決めつけず、夜間痛が強い、肩がどんどん硬くなる、長期間改善しない場合には、一度ご相談ください。