2026年9月15日

「先生、これって五十肩ですか?」
「夜になると肩がズキズキして眠れません」
「腕が上がらなくなってきました」
「そのうち自然に治るって聞いたんですけど、本当ですか?」
整形外科で非常によく聞く相談です。
ところで、四十肩と五十肩って何が違うのでしょうか?
実は、四十肩と五十肩は、基本的には同じような状態を表す一般的な呼び方です。
40歳代なら「四十肩」、50歳代なら「五十肩」と呼ばれることが多いだけで、医学的に40歳と50歳で別の病気になるわけではありません。
ただし、ここが非常に重要です。「肩が痛い=全部、四十肩・五十肩」ではありません。腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、変形性肩関節症、頚椎疾患などでも似た症状が出ます。
そのため、「年齢的に五十肩だろう」と自己判断して何か月も放置するのはおすすめできません。
今回は四十肩・五十肩とは結局何なのか、似た病気との鑑別、治療、セルフケア、リハビリまで最新の医学的知見をもとに詳しく解説します。
まず整理|「四十肩・五十肩」と「凍結肩」は同じ?
少しややこしいところです。
日本では昔から、中年以降に起こる肩の痛みや動かしにくさを広く四十肩・五十肩と呼んできました。
医療現場では肩関節周囲炎という言葉が使われることもあります。
一方、国際的には、特徴的な肩関節の痛みと強い可動域制限を示す状態を、
Frozen Shoulder(凍結肩)
あるいは、
Adhesive Capsulitis(癒着性関節包炎)
と呼びます。
厳密には「肩関節周囲炎」は肩周囲のさまざまな病態を含む広い表現で、凍結肩と完全に同義とは言えません。
この記事では、患者さんが一般的に「四十肩・五十肩」と呼んでいる状態の中でも、特に凍結肩に近い病態を中心に説明します。
四十肩・五十肩では、肩の中で何が起こっているの?
肩関節は、上腕骨の骨頭と肩甲骨の関節窩からできています。
その周囲を袋のように包んでいる組織が関節包です。
凍結肩では、この関節包を中心に炎症や線維化などが起こり、徐々に関節包が硬くなっていきます。
すると、
肩が痛い
↓
動かしにくくなる
↓
さらに関節が硬くなる
↓
腕が上がらない・後ろに回らない
という状態になります。
2026年の最新レビューでも、凍結肩は中年層に多く、強い肩痛と関節可動域制限を引き起こす疾患であり、従来考えられていたほど「必ず自然に完全回復する病気」ではない可能性が指摘されています。

一番大事な特徴|「自分でも上がらない、人に動かしてもらっても上がらない」
四十肩・五十肩を考えるうえで非常に重要なのが、自動運動だけでなく他動運動も制限されることです。
つまり、自分で腕を上げても上がらないだけでなく、
力を抜いて、医師や理学療法士に動かしてもらっても動きにくいという状態です。
特に制限されやすいのが外旋、つまり肘を身体につけたまま前腕を外側へ開く動きです。
そのほか、
・髪を結べない
・服を着替えにくい
・高い棚に手が届かない
・エプロンの紐を後ろで結べない
・背中に手を回せない
などが典型的です。
「夜中にズキズキ痛い」も特徴の一つ
初期の凍結肩では、動かした時だけでなく安静時痛や夜間痛が強く出ることがあります。
「寝返りを打つと激痛が走る」
「痛い方を下にすると眠れない」
「じっとしていてもズキズキする」
という患者さんも珍しくありません。
この時期に、「硬くならないように、とにかく無理やり動かしましょう」と強いストレッチを繰り返すと、痛みが悪化することがあります。
リハビリは重要ですが、痛みが非常に強い時期と、痛みが落ち着いて硬さが主体となった時期では治療内容を変える必要があります。
四十肩・五十肩には「段階」がある
従来、凍結肩は大きく、
① Freezing phase:痛みが強くなり、徐々に硬くなる時期
② Frozen phase:痛みは少し落ち着くが、強い可動域制限が残る時期
③ Thawing phase:徐々に動きが改善する時期
と説明されてきました。
ただし、すべての患者さんが教科書通りに明確な3段階をたどるわけではありません。
実際には痛みと硬さが重なりながら変化するため、「今、痛みが主体なのか」 「硬さが主体なのか」
を見ながら治療内容を調整することが大切です。
四十肩・五十肩になりやすい人は?
原因を完全に説明できないケースも多いですが、2025年の診療ガイドラインでは、
・糖尿病
・甲状腺疾患
・脂質異常症
などが凍結肩の発症リスクと関連するとされています。
特に糖尿病がある方では凍結肩が起こりやすく、治療に時間がかかる場合もあります。
また、肩の手術や骨折などのあとに長期間肩を動かしにくい状態が続き、二次的に肩が硬くなるケースもあります。
鑑別① 腱板断裂
「腕が上がらない」と聞くと五十肩を疑いたくなりますが、腱板断裂でも腕が上がりにくくなります。
腱板は肩を動かし、上腕骨頭を安定させる重要な腱です。
腱板断裂では、・腕を上げると痛い・力が入りにくい・夜に痛むなど、五十肩と非常によく似た症状が出ます。
ただし腱板断裂では、患者さん自身では上げにくくても、他人が動かすと比較的動くケースがあります。
一方、凍結肩では他動運動も硬くなっていることが大きな特徴です。
もちろん、両方が合併することもあるため診察だけで単純に決めつけることはできません。
鑑別② 石灰沈着性腱板炎
「昨日まで普通だったのに、突然肩が猛烈に痛くなった」という場合には石灰沈着性腱板炎も考えます。
肩の腱板周囲に石灰が沈着し、強い炎症を起こすことがあります。
急性期では、・ほとんど肩を動かせない・夜も眠れないほど痛い・じっとしていても激痛
というケースがあります。
レントゲンで石灰が確認できることがあり、一般的な凍結肩とは治療方針が異なることがあります。
鑑別③ 実は「首」が原因
肩が痛いからといって、必ず肩関節の病気とは限りません。
頚椎椎間板ヘルニアや頚椎症性神経根症では、
・首から肩・腕にかけて痛い・手までしびれる・首を動かすと症状が変わる・腕や手に力が入りにくい
などの症状が出ます。
この場合、肩の治療だけをしても改善しません。
肩の診察と同時に、必要に応じて首や神経の状態も確認します。
だから「五十肩でしょう」で終わらせない
凍結肩の診断は基本的に症状と診察所見を中心に行う臨床診断です。
2025年の診療ガイドラインでも、超音波検査やMRIは診断を補助し、腱板断裂など他の疾患を除外するために使用するものであり、画像検査だけで凍結肩を診断するものではないとされています。
必要に応じてレントゲン、超音波、MRIなどを組み合わせ、本当に凍結肩なのか?を確認することが重要です。
四十肩・五十肩の治療はどうする?
治療の中心は基本的に保存療法です。
患者さんの時期や症状に応じて、・鎮痛薬・関節内ステロイド注射・運動器リハビリテーション・セルフエクササイズなどを組み合わせます。
2025年の診療ガイドラインでは、関節内ステロイド注射が推奨され、理学療法との併用や、ステロイドを用いたハイドロダイラテーションも選択肢とされています。
特に痛みが強い時期では、まず痛みをコントロールすることで、その後のリハビリを進めやすくなることがあります。
「注射だけ」「リハビリだけ」ではなく組み合わせて考える
過去の大規模ネットワークメタ解析では、関節内ステロイド注射は短期的な痛みや機能改善で有用であり、簡単なホームエクササイズを組み合わせることで、その後の改善につながる可能性が示されています。
つまり、
注射で痛みを抑える
+
リハビリで動きを取り戻す
+
自宅でも適切に動かす
という組み合わせが重要です。
リハビリは「痛いほど動かせばいい」ではありません
これは非常に重要です。
五十肩になると、「固まるから痛くても動かしなさい」と言われることがあります。
しかし、痛みを我慢して無理やり引っ張れば早く治る、というものではありません。
運動器リハビリでは、・関節可動域・痛みが出る方向・肩甲骨の動き・肩関節周囲の筋・日常生活で困っている動作などを確認します。
そして痛みの強い時期には刺激量を抑え、症状が落ち着いてきたら徐々に可動域訓練や筋力訓練を進めます。
2026年の31研究をまとめたシステマティックレビュー・メタ解析でも、運動療法は痛み、機能、可動域に小さいながら有意な改善を示しました。一方、どの運動方法が絶対的に優れているかについては明確ではなく、研究間のばらつきも大きいとされています。
つまり、YouTubeで見た体操を全員が同じように行うのではなく、その人の時期と症状に合わせることが大切です。
自宅では何をすればいい?
まず基本は、完全に動かさない状態を長く続けないことです。
ただし、強い夜間痛がある時期に無理やり大きく動かす必要もありません。
痛みのない範囲で、・振り子運動・テーブルや壁を使った軽い挙上運動・反対の手を使った補助運動
などを行うことがあります。
目安は、「強い痛みを我慢して伸ばさない」ことです。
運動したあと何時間も痛みが増えたり、その夜の夜間痛が明らかに悪化したりする場合は、負荷が強すぎる可能性があります。
温めた方がいい?冷やした方がいい?
慢性的なこわばりが主体で、温めると楽になる方では、入浴などで温めてから軽く動かす方法もあります。
一方、急に強い痛みが出た直後や炎症が非常に強い場合には、温めることでつらく感じる人もいます。
「五十肩は必ず温める」「必ず冷やす」と一律に決める必要はありません。
症状に合わせて判断しましょう。
「ほっといたら治る」は本当?
凍結肩は自然経過で改善する患者さんも多くいます。
しかし、「放っておけば全員きれいに元通りになる」とは言い切れません。
2026年のレビューでは、凍結肩は従来「自然に治る疾患」と考えられてきたものの、症状が長く続いたり、完全な機能回復に至らなかったりする患者さんもいることが指摘されています。
特に、・夜も眠れない・服が着られない・仕事に支障が出ている・数か月たっても悪化している
という場合には、「そのうち治る」と我慢する必要はありません。
よくある質問
基本的には年齢によって呼び方が変わっているだけで、医学的に別々の病気というわけではありません。
個人差があります。数か月で改善する方もいれば、1年以上症状が続く方もいます。
強い痛みを我慢して無理やり動かす必要はありません。症状や時期に合わせた運動が大切です。
凍結肩は基本的に症状と診察から判断します。MRIや超音波は、腱板断裂など別の病気の除外に役立つことがあります。
注射によって痛みや機能が改善することはありますが、1回の注射だけで全員が完全に治るわけではありません。リハビリやセルフエクササイズなどを組み合わせて治療します。
多くは保存療法で治療します。ただし、十分な保存療法を行っても強い可動域制限や生活障害が残る場合には、関節鏡視下関節包解離術などが検討されることがあります。
まとめ|「五十肩だから仕方ない」で終わらせないでください
四十肩・五十肩で最も大切なのは、
「肩が痛い=五十肩」と最初から決めつけないことです。
腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、頚椎疾患など、似た症状を起こす病気があります。
本当に凍結肩であれば、
・痛みをコントロールする・肩の動きを少しずつ取り戻す・必要に応じて注射治療を行う
運動器リハビリテーションを行う
・自宅でも適切な運動を続けるという治療を、症状の段階に合わせて組み合わせることが大切です。
「夜中に肩が痛くて眠れない」 「肩が上がらなくなってきた」 「背中に手を回せない」 「何か月も治らない」
そんな方は、「五十肩やから、そのうち治るやろ」と我慢し続けず、一度整形外科で本当に五十肩なのかを確認しましょう。
最新医学論文・ガイドライン
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Lee BC, et al. Clinical Practice Guidelines for Diagnosis and Non-Surgical Treatment of Primary Frozen Shoulder. Ann Rehabil Med. 2025;49(3):113-138.
2025年に発表された凍結肩の診断・非手術治療に関する診療ガイドラインです。糖尿病、甲状腺疾患、脂質異常症などのリスク因子、画像検査の位置づけ、関節内ステロイド注射、理学療法、ハイドロダイラテーションなどについて、GRADEを用いて評価されています。
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Achilova F, Daher M, Nassar JE, et al. Frozen shoulder: Diagnosis and treatment of adhesive capsulitis. Am J Med. 2026;139(5):598-605.
2026年の最新レビューです。凍結肩は臨床所見を中心に診断し、画像検査は他疾患の除外に用いること、治療は病期・症状・併存疾患に合わせて個別化する必要があることがまとめられています。また、必ずしもすべての患者さんが自然経過で完全回復するわけではないことも指摘されています。
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Hamed-Hamed D, et al. Rehabilitation of Frozen Shoulder: A Systematic Review and Meta-Analysis of Multifactorial Interventions. Pain Res Manag. 2026;2026.
31研究を検討したシステマティックレビュー・メタ解析です。運動療法は疼痛、機能、関節可動域について小さいながら改善を示しましたが、研究間のばらつきが大きく、特定の運動方法が明確に優れているとは言えないことも示されています。
監修者情報
整形外科おおつかクリニック
院長 大塚 貴史
四十肩・五十肩は非常によく使われる言葉ですが、「肩が痛い中年の方」をすべて五十肩として扱ってよいわけではありません。
腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、頚椎疾患など、治療方法の異なる病気との鑑別が重要です。
また、本当に凍結肩であったとしても、痛みが非常に強い時期と、関節の硬さが主体となった時期では治療内容が異なります。
当院では肩の痛みだけでなく、関節可動域、筋力、頚椎、肩甲骨の動きなども確認し、必要に応じて画像検査を行ったうえで、薬物療法、注射治療、物理療法、運動器リハビリテーションなどを組み合わせます。
「五十肩と言われたけれど全然良くならない」
「肩が痛くて夜も眠れない」
「最近どんどん肩が動かなくなっている」
そんな場合には、「年齢だから仕方ない」と我慢せず、一度肩の状態を確認することをおすすめします。