2026年9月15日

「肩甲骨の内側がズキズキする」
「背中の一か所だけ、ずっと重だるい」
「マッサージしても、またすぐ痛くなる」
「肩甲骨の内側を押してもらうと気持ちいいけど、なかなか治らない」
このような症状はありませんか?
肩甲骨の内側が痛いと、「肩こりかな?」「背中の筋肉が硬いだけかな?」と思われる方が多いと思います。
もちろん、肩甲骨周囲の筋肉に負担がかかって痛くなることはあります。
しかし、ここで知っておいていただきたいことがあります。
肩甲骨の内側が痛いからといって、「肩甲骨」が悪いとは限りません。
実は、首の病気が原因で肩甲骨の内側に痛みを感じることがあります。
ほかにも、肩甲骨周囲の筋肉、神経、肩関節、胸郭など、原因はさまざまです。
今回は「なぜ肩甲骨の内側が痛くなるのか?」について、最新の医学研究も交えながら、わかりやすく解説します。
そもそも肩甲骨の内側には何があるの?
肩甲骨は背中の上部にある平たい骨です。
その周囲には、
僧帽筋
菱形筋
肩甲挙筋
など、首や肩甲骨を動かす多くの筋肉があります。
腕を上げる、物を持つ、デスクワークをする、スマートフォンを見るといった日常動作でも、これらの筋肉は肩甲骨を安定させるために働いています。
さらに、肩甲骨周囲の痛みには、筋肉だけでなく頚椎から出る神経も関係します。
つまり、「肩甲骨の内側が痛い」という一つの症状でも、その原因は一つではありません。

原因① 首・肩甲骨周囲の筋肉に負担がかかっている
比較的よくみられるのが、肩甲骨周囲の筋肉に負担が集中しているケースです。
例えば、
・パソコン作業が長い
・スマートフォンを見る時間が長い
・同じ姿勢を長時間続ける
・腕を前に出した作業が多い
・肩や背中をあまり動かさない
といった生活が続くと、首から肩甲骨にかけての筋肉に負担がかかることがあります。
特にデスクワークでは、頭が前方へ出たり、肩が前へ入り込んだりした状態が長時間続くことがあります。
すると僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋などが長時間働き続け、「肩甲骨の内側が重い」「押すと痛い」「夕方になるとつらい」といった症状につながることがあります。
ただし、「姿勢が悪いから必ず痛くなる」というほど単純ではありません。
姿勢だけでなく、仕事量、睡眠、運動習慣、筋力、身体の使い方など、複数の要素が関係します。
原因② 実は「首」が原因のことがあります
ここが今回の記事で最も知っていただきたいポイントです。
肩甲骨の内側が痛い患者さんの中には、頚椎が原因となって痛みが出ているケースがあります。
首には7個の頚椎があり、その間から神経が出ています。
椎間板ヘルニアや加齢による変化などによって神経根が刺激されると、頚椎神経根症を起こすことがあります。
頚椎神経根症というと、「腕がしびれる病気」というイメージが強いかもしれません。
しかし、それだけではありません。
2025年に発表された86研究を対象としたスコーピングレビューでは、頚椎神経根症の痛みの部位として、首は88%、腕は85%、そして肩甲骨周囲は72%の研究で報告されていました。
さらに、患者さんによっては腕の痛みやしびれより先に肩甲骨周囲の痛みが出る可能性も指摘されています。
つまり、「腕はしびれていないから首ではない」とは言い切れません。

首からくる痛みにはどんな特徴がある?
例えば、
・首を動かすと肩甲骨の痛みが変化する
・上を向くと肩甲骨の内側まで痛む
・首から肩甲骨、腕へ痛みが広がる
・腕や手にしびれがある
・手や腕に力が入りにくい
といった場合には、頚椎からくる症状を考えます。
2025年のレビューでは、特にC7神経根と肩甲骨周囲痛との関連が文献上比較的多く報告されていました。
ただし、「肩甲骨のこの場所が痛いからC7」というように、痛みの場所だけで障害されている神経を確定することはできません。
診察では首の動きだけでなく、感覚、筋力、腱反射などを含めて総合的に判断します。
原因③ 肩甲骨の動きがうまくいっていない
肩甲骨は固定された骨ではありません。
腕を上げたり下ろしたりするときに、胸郭の上を滑るように動きます。
この肩甲骨の動きが乱れた状態を**肩甲骨ジスキネジア(scapular dyskinesis)**と呼ぶことがあります。
2025年のシステマティックレビューでは、慢性的な頚部痛がある人では肩甲骨の動きの異常が多くみられる傾向が報告されています。
ただし、研究のエビデンスの確実性は非常に低く、「肩甲骨の動きが悪いから首が痛くなる」と単純に因果関係を断定できる段階ではありません。
原因④ まれですが「肩甲背神経」が原因になることも
肩甲骨の内側には、**肩甲背神経(dorsal scapular nerve)**という神経が関係しています。
主に菱形筋などに関係する神経です。
2026年に発表された最新のシステマティックレビューでは、肩甲背神経の障害によって、
・肩甲骨内側の痛み
・菱形筋の筋力低下
・肩甲骨の動きの異常
・軽度の翼状肩甲
などがみられることが報告されています。
ただし、これは肩甲骨内側痛の代表的な原因というわけではありません。
研究の多くも症例報告や小規模研究であり、エビデンスはまだ限定的です。
「肩甲骨の内側が痛い=肩甲背神経障害」と自己診断するのは適切ではありません。

原因⑤ 肩関節や胸郭が関係していることもあります
肩甲骨は肩関節と連動して動いています。
そのため、肩関節の動きが悪くなると、肩甲骨周囲の筋肉が代わりに頑張りすぎて痛みを感じることがあります。
例えば、
・腕を上げると肩も痛い
・肩が上まで上がらない
・背中に手を回しにくい
という場合には、肩関節も含めて評価する必要があります。
また、胸椎や肋骨周囲の問題によって肩甲骨周囲に痛みを感じることもあります。
だからこそ、「肩甲骨が痛いから肩甲骨だけマッサージする」という治療だけでは改善しない場合があるのです。
注意!肩甲骨の痛みが内臓からくることもあります
多くの肩甲骨周囲痛は筋骨格系の問題ですが、すべてが整形外科的な痛みとは限りません。
特に、胸の痛みや圧迫感・息苦しさ・冷や汗・吐き気
などと肩・背中の痛みが同時に出た場合には、心臓などの病気も考える必要があります。
また、発熱・強い咳・息を吸うと痛む
などを伴う場合には、呼吸器系の病気が関係していることもあります。
さらに、
夜中も強く痛む・何をしていても痛みが変わらない・原因不明の体重減少がある・がんの治療歴がある
といった場合にも、一度医療機関で評価を受けてください。
胸痛や呼吸困難、冷や汗などを伴う強い痛みでは、緊急の対応が必要になることがあります。

自分でできる対処法は?
明らかな外傷や神経症状がなく、軽い筋肉性の痛みと考えられる場合には、まず長時間同じ姿勢を続けないことが大切です。
例えば、30分~1時間に一度は姿勢を変える・軽く歩く・肩をゆっくり回す・胸を軽く開く・痛みのない範囲で首や肩を動かす
などから始めてみましょう。
一方で、「肩甲骨の内側が痛いから」と痛いところを強く押し続けたり、硬いボールを当てて激しく刺激したりする必要はありません。
特に、しびれや腕の痛みを伴う場合には、神経症状が関係している可能性があります。
無理に強いストレッチを続けず、一度診察を受けることをおすすめします。
当院では「痛い場所だけ」を見ません
肩甲骨の内側が痛い場合、大切なのは、
「どこが痛いか」だけでなく「どこから痛みが来ているのか」を考えることです。
診察では、
・首を動かすと症状が変わるか
・肩関節の動きはどうか
・腕や手にしびれがないか
・筋力低下がないか
・肩甲骨の動きはどうか
などを確認します。
必要に応じてレントゲンなどの画像検査を行い、頚椎神経根症などが疑われる場合にはMRIを検討することもあります。
2025年に公表されたACRの頚部痛・頚椎神経根症の画像診断ガイドラインでも、症状や神経学的所見、感染や腫瘍などの危険因子によって、必要な画像検査を選択することが重要とされています。
つまり、肩甲骨が痛いから全員にMRIが必要というわけではありません。
運動器リハビリテーションも重要です
筋肉や身体の使い方が関係している場合には、運動器リハビリテーションが治療の選択肢になります。
リハビリでは、頚椎の動き・肩関節の動き・肩甲骨の動き・胸椎の柔軟性・肩甲骨周囲の筋力
を評価します。
2024年のシステマティックレビュー・メタ解析では、慢性頚部痛に対する肩甲骨をターゲットにした治療は、痛みの改善に有用な可能性が示されています。
一方で、頚部機能障害については明確な改善が示されなかった項目もあり、「肩甲骨を鍛えれば何でも治る」という意味ではありません。
原因に合わせた運動を選ぶことが大切です。
よくある質問
筋肉の負担による場合もありますが、すべてが肩こりではありません。
頚椎神経根症、肩関節、胸郭、まれに神経障害などが関係することがあります。
あります。
2025年のレビューでは、頚椎神経根症で肩甲骨周囲痛がみられることが確認されており、肩甲骨痛が腕の症状より先行する可能性も報告されています。
筋肉の緊張が関係している場合には一時的に楽になることはあります。
しかし、頚椎や神経など別の原因がある場合には、痛いところだけをマッサージしても繰り返すことがあります。
痛みのない範囲で身体を動かすことは選択肢になります。
ただし、腕のしびれや筋力低下がある場合や、ストレッチで痛みが強くなる場合には中止してください。
痛みが何週間も続く、何度も繰り返す、首を動かすと肩甲骨まで痛む、腕や手のしびれ、筋力低下などを伴う場合には、一度整形外科で相談することをおすすめします。
まとめ|肩甲骨が痛いからといって「肩甲骨だけ」が原因とは限りません
肩甲骨の内側の痛みには、首・肩甲骨周囲の筋肉、頚椎神経根症、肩甲骨の動き、まれな末梢神経障害
など、さまざまな原因があります。
特に知っておいていただきたいのが、「肩甲骨の内側の痛みが、首から来ることがある」ということです。
マッサージをすると一時的に楽になるけれど、すぐにまた痛くなる。首を動かすと肩甲骨まで痛む。
最近、腕や手までしびれてきた。
そんな場合には、「単なる肩こりだから」と決めつけないことが大切です。
痛い場所だけを見るのではなく、首・肩・肩甲骨・神経まで含めて原因を確認しましょう。
最新医学論文
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Afshar A, Tabrizi A, Shariyate MJ. Dorsal scapular nerve entrapment: a systematic review. JSES Reviews, Reports, and Techniques. 2026;6(4):100807.
肩甲背神経障害についてまとめた2026年のシステマティックレビューです。肩甲骨内側痛、菱形筋の筋力低下、肩甲骨運動異常などとの関連が報告されていますが、現時点の研究は小規模研究や症例報告が中心で、エビデンスには限界があります。
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Carmichael J, Weber KA II, Rubinstein S, et al. Scapular pain in cervical radiculopathy: A scoping review. North American Spine Society Journal. 2025;23:100619.
86研究を対象として、頚椎神経根症と肩甲骨周囲痛について検討したレビューです。肩甲骨周囲痛は頚椎神経根症の症状として比較的多く報告され、腕の痛みより先に出現する可能性も示されています。
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Javdaneh N, Barati A, Shojaedin S, et al. Is chronic neck pain related to scapular dyskinesia? A systematic review. BMC Musculoskeletal Disorders. 2025;26:585.
慢性頚部痛と肩甲骨ジスキネジアとの関連を検討したシステマティックレビューです。関連性は示唆されたものの、GRADEによるエビデンスの確実性は非常に低く、因果関係についてはさらなる研究が必要とされています。
監修者情報
整形外科おおつかクリニック
院長 大塚 貴史
肩甲骨の内側の痛みは、「肩こり」として扱われやすい症状です。
しかし実際には、肩甲骨周囲の筋肉だけではなく、頚椎や神経、肩関節などが関係している場合があります。
特に、
首を動かすと肩甲骨まで痛む
マッサージをしても何度も繰り返す
腕や手にしびれがある
手や腕に力が入りにくい
といった場合には、痛い場所だけではなく頚椎や神経まで含めた評価が重要です。
当院では、首・肩・肩甲骨の動きや神経症状を確認し、必要に応じて画像検査を行ったうえで、薬物療法、物理療法、運動器リハビリテーションなどから患者さんの状態に合った治療を検討します。
「肩甲骨の内側がずっと痛い。でも、どこが悪いのか分からない」
そんな方は、我慢し続けず一度整形外科へご相談ください。